海外で経験した命の危険~スペインで全力疾走

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大学2年の夏に訪れたスペインは初日からトラブル続きでした。まずスペインの玄関口、バラハス空港に到着した時、荷物がなくなっていました。職員の話では、どうやら私の荷物は今アムステルダムにあるらしいとのことサービス精神も申し訳がるわけでもなく、宿が決まったら連絡して、と言われました。

初めてのスペインで初日からなんて日だ、そう思いながら宿を探すことにしました。しかし不幸は続くもの。下調べしてあった宿がことごとく満員でした。ここがダメだったら予算オーバーでも高いところに行くしかない、頼む!そう願いながら最後の希望のホテルの扉を叩きました。返ってきた答えは、2人部屋のドミトリーなら空いているとのことでした。全然OKです。とりあえず災難続きだったスペインで初めてホッとしました。

しかし、部屋に案内されて、もう一人の同居人に挨拶をし、荷物(と言っても手荷物一つだけでしたが)を下ろすと宿のオーナーから、スペイン滞在で重要なことを話すから聞きなさいと言われました。

・スペインでは財布を持ち歩かない。

・必ず大通りを歩き、裏道にはいかない。

・強盗に襲われても歯向かわない。

・強盗に差し出すのと別のお金を所持しておく。

これらを必ず守りなさいと言われました。スペインに来る前に20か国ほど訪れたことがありましたが、正直ここまで用心するように言われたのは初めてでした。そんなにスペインの治安は悪いのか・・・そう不安になりました。

確かに当時今から20年近く前、スペインがまだユーロに加わる前のこと。スペインはめちゃめちゃ治安が悪かった。まず外国人観光客が被害に遭うことが日常茶飯事で珍しくありませんでした。しかも窃盗とかスリとかの軽犯罪ではなくて、強盗強姦傷害などでした。白昼堂々四方を段ボールで囲まれそのまま裏路地に連れていかれ、金品を撮られた挙句、殴る蹴るされるなんて事件も頻発していました。

また当時私たちを恐怖に陥れていたのが、首絞め強盗 でした。その名の通り、首絞められてこん睡させられる、と言う荒っぽい強盗でした。お金なら上げるからせめて荒っぽいことしないでくれ、本気でそう思いました。

そんな危険なスペインでしたが、2週間の滞在は非常に楽しかったです。しかしスペイン滞在が残りわずかとなったある日。その日は朝からずっと雨が降っていました。これじゃあどこにも行けないな、そう思いながら部屋でゴロゴロしていました。気づけば夜の8時過ぎ。窓から外を眺めていると雨は止んでいるようでした。

よし!と思い外に出ることにしました。しかし街には人はまばら。雨に濡れた石畳のマドリードもいいねーなんて思いながら、2時間ちょっとの間に3軒ほどのバルをはしごしました。ほろ良い加減に酔っ払った私はそろそろ宿に戻ることにしました。

しかし宿を出た8時頃にはまだまばらにいた人が10時を回った頃になると、まるでゴーストタウンのように誰もいなくなっていました。それでも、何か良い雰囲気だな映画のワンシーンみたいだなー、くらいにしか思っていなかったのですが、しばらくすると少し様子が変わってきました。

あれ?誰かが後ろから付いてきている気がする?気のせいかとも思いましたが、完全に後ろから2~3人が付いてきています。どうしようと。さすがに一気に酔いが醒めて冷静になりました。周りには誰もいない。そしてここから宿までは後500mくらいあります。しかしそうしている間にも後ろとの距離は縮まっているような気がします。

そして決心しました。次の角を曲がったら全速力で走ろうと。それまでは後ろを振り向くことなく気づいていない振りをしようと。ほんの10mほどの次の角までの時間がものすごく長く思えました。

そして角を曲がった瞬間、思い切り走りました。それはもうあんなに走ったのは高校のスポーツテストの50m走以来でした。気のせいでもなんでもなく、後ろから追いかけてくる声がばしばし聞こえてきます。何て言っているのか分かりませんでしたが、意訳ですがおそらく、逃げやがった、ちくしょう、あの野郎逃がすな、的なことを言っていたのだと思います。

しかし私はそんなこと気にする暇なくまさに風の様に走り抜けました。こっちは学生時代50m6.5秒で学校でも速い方だったんだぞと。当時まだ20歳で体力に自信があった私は、絶対に振り切ってやると。そんなことを思いながら一心不乱に走り続け宿に到着しました。しかし当時のスペインの宿は鍵が3つありました。

一つ目は宿が入っている建物に入る鍵(一つの建物に複数の宿がある)

二つ目は宿に入る鍵。

三つ目は自分の部屋に入る鍵。

こんな時に!と思いながら鍵穴に手当たり次第に鍵を差し込みました。何とか二回目でドアが開き、大急ぎで建物の中に入り、ドアを閉めました。良かった・・・ほっと一息着いた瞬間、ドアを叩く怒声が聞こえました。どうやら間一髪だったようですが、私はその怒声を聞いた瞬間、さらに飛ぶように階段を駆け抜け3階にあった宿に滑り込みました。

玄関横には宿泊客がくつろげるソファーセットがあり皆がいたのですが、あまりの形相で駆け込んできた私を見て一体何事かと皆驚いていました。私は一部始終を話し、そっと近くの窓から下を見てみると建物から立ち去っていくチンピラ3人組が見えました。そう。あいつらに襲われそうになったけど振り切ったよ、そう言いました。

スペインは治安が悪く常に緊張感を持って過ごしていましたが、そんな治安の悪さを補って余りあるくらい楽しい時間でもありました。襲われて嫌な記憶を持ったままスペインを離れずに済んでよかったです。