海外で危険に慣れておかしくなった話~ブラジルのバスジャック

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人間とは慣れる動物である。

こんな言葉どこかで聞いたことがあるかもしれません。どんな過酷な環境や状況に置かれても人間はいつしかその環境に慣れ、それが普通だと思ってしまう。思えてしまう。私はそれをブラジルで経験したことがあります。それは私がブラジルのサルバドールに滞在していたころのお話。ブラジルは私が今まで訪れた国の中でトップレベルで治安の悪い国でした。半年ほど滞在していたのですが、最初の頃は注意に注意を重ねていました。

常に現金は強盗に襲われて取られてもいいくらいの額しか持ち歩かない。

貴重品は持ち歩かない。

なるべく歩かずタクシーを使う。

などなど。しかし、ブラジルの北部サルバドールに住み始めてタガが少しずつ外れ始めてしまいました。私が住んでいたサルバドールのスラムは私たちにとっては安全なスラムでした。それでもスラムはスラム。実害こそありませんでしたが、日常的にスリリングは光景をよく目にしていました。

普通に出くわしたら全速力で逃げ出すであろうでかい黒人たち。

上半身裸で裸足で歩くおじさん。素っ裸で走り回る子供たち。

夜になると街頭に立つ男か女かわからない娼婦。

そんな環境に半年間も身を置くと、治安とは?平和とは?何かが分からなくなってきていました。今思えば、ああ、あの時私を含め当時ブラジルに住んでいた友人皆、治安に関して馬鹿になっていたんだな、そう思ったことが幾つかあります。その1つが、バスジャック。当時、サルバドールではよくバスジャックが起きていました笑

・・・まずこの時点で日本の常識では考えられないかと思います。これが日本ならば、ニュースの第一報で報じられ、新聞の一面に載ることと思います。そんな大事件ですが、サルバドールでは日常茶飯事でした。そしてこのバスジャックに私の友人がサルバドールで遭遇したのでした。

その日、私たちは友人と会う約束をしていました。正確にはダウンタウンに住む友人が、昼の13時に私たちが住む長屋を訪ねてくる予定でした。しかし、13時になり14時になり15時になっても友人は来ません。あれ?今日日は来ないのかな?そう思っていた矢先、17時になってやっと友人がやってきました。

随分と遅かったねー、なんて言って出迎えましたがどうも様子がおかしい。何かあったの?そう尋ねると友人は、バスジャックにあった、と言いました。嘘?マジで、どこで?驚きましたがそれ以上に、バスジャックにあった人と初めて遭遇した!という興奮が勝り、皆で質問攻めにしていました。

友人曰く、突然車の中に押し入ってきた強盗が銃で威嚇しながら、金目のものを出せ、と言ってきたとのことでした。そして友人も他の乗客同様お金を取られてしまったと。しかし、問題なのはバスジャックに遭遇した場所でした。それがダウンタウンと私たちの住むスラムの中間地点くらい。

お金は財布ごと盗られて1ヘアルもない状態。結局、バスジャックに遭った場所から私たちの住処までおよそ10㎞、その距離を歩いてきたため遅くなったとのことでした。初めのうちはバスジャックに遭った友人を心配していましたが、取られたお金も2、3千円くらいで特に怪我もしていない、ということもあって途中から友人の話を爆笑しながら皆聞いていました。

挙句の果てに、バスジャックに遭った人と初めて会いました。サイン頂戴下さい、握手してください、写真撮って下さい、などと散々からかい、いじりまくっていました。今思い返すと日本と違い治安の悪いブラジルでの生活に異常に慣れてしまった結果、どこかタガが外れてしまっていたのだと思います。

まあその友人も友人で関西出張ということもあるのか?途中から、これはオイシイ、という表情をしていたというのもあると思います。それにしてもバスジャックの被害者をあれだけいじりまくったことがある人も世の中にそうはいないと思います。