ブラジルのサルバドールでの怠惰な日々その8

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ブラジルのサルバドールでの彼女との付き合いはおよそ6か月近く続きました。当時ブラジルでの滞在可能期間はビザを延長して半年間でした。つまりブラジルにいた半年間ほとんどサルバドールにいたことになります。サンパウロに3日と移動の36時間以外の時間はずっとサルバドールにいました。

ブラジルには世界遺産や大自然、有名な観光地があるにも関わらずどこにも行かずにずっとサルバドールにいました。というよりほとんどずっと彼女といました。ブラジルらしいことは何もせずにただただずっと彼女といたのでした。彼女と、セックスして、一緒に寝て、起きて、ご飯を食べて、お酒を飲んで、またセックスして・・・

そんな当たり前の生活の連続は私の感覚を麻痺させていきました。そしてそんな当たり前の時間が終わることに全く実感が湧きませんでした。このままこの生活を特に何の問題もなく続けられるのではないか?実際はそんなことは不可能なのですが、心のどこかでは、いや大丈夫だろう!そう思えて仕方がありませんでした。

しかし、そんな時間にも当然ながら終わりは訪れます。それはシンプルにビザ切れでした。じこの、ビザ、という現実的な問題を目の当たりにするとやはり自分はただの外国人観光客なのだということを思い知らされます。そしていきなり現実に引き戻されました。そしてさらにビザの他にももう一つ現実的な問題に直面していました。それはお金の問題でした。手持ちの資金が乏しくなってきていたのでした。

当時、私は、タイのバンコクからアメリカとコロンビアを経由してチリのサンチアゴまで、という1年オープンの復路の航空券を持っていました。手持ちの資金が乏しくなってきた、とは南米から日本またはタイまでの帰りのチケットを買い直すことができる金額ギリギリの資金となっていることを意味していました。

つまりブラジルにこれ以上滞在(不法滞在)するとなると、必然的に今持っている1年オープンのチケットを捨てなければいかず、手持ちの資金では日本行きのチケットを買うことができなくなることを意味していました。日本に帰れない!いや帰らなくてもいい?当時の私にはこれは甘美な言葉に思えました。

かなり毒されていますが、現実的なことを考えれば、手持ちの復路のチケットでタイに戻るべきだと思います。不法滞在をすることもない合法的で現実的な考えだと思います。しかし当時の私にはサルバドールでの彼女との生活が当たり前の日常になっており、それを捨てるということがあまりピンときませんでした。

このずっと続くと思っていた日常を捨てる?しかしいくらブラジルに毒されていたとはいえ、さすがに勢いとテンションだけで決めてよいことではありませんでした。いくら目の前に3年ほど不法滞在している人がいて人生の教科書があるとは言え、その辺は生まれ持った生来の慎重さ、ヘタレ具合が功を奏しました。

想像してみました。このままブラジルに留まった自分を。ビザの問題はさておき、不法滞在。そもそもお金はどうするのか?不法滞在で働ける仕事なんてほとんどありません。仕事はどうするのか?仮に彼女との生活が続いたとしても最終的にそれはヒモみたいな状態になるということではないかと。捨てられたらどうするのか?

と言うか・・・そうまでして私はブラジルにいたいのか。それとも彼女と結婚でもしてブラジルに滞在できるようにするのか?・・・さすがにそこまで考えることはできませんでした。何日間も迷った挙句、私は我に返り、ブラジルでの滞在を諦め南米を後にすることを決めました。