私は一番忙しい時で、マッサージ、ガーデンヘルパー、洗車、の仕事を掛け持ちしていました。しかし帰国が近づくにつれて徐々にシフトを減らしていき、ラスト一か月になるとマッサージの仕事だけになっていました。それはせめてマッサージの仕事だけはぎりぎりまでやろうと思ったからでした。
結局マッサージの仕事を辞めたのは帰国1週間前のこと。最後はおよそ10か月お世話になったオーナー宅で二人きりのお別れ会となりました。相変わらず部屋は汚かったのですが、オーナーが腕によりをかけてタイ料理を作ってくれました。そして二人でしこたま飲みました。酔った勢いでオーナーは、
どうしても日本帰るのか?もし働きたかったらここで働いてもいいぞ?
>・・・うーん、いや、気持ちは嬉しいけどやっぱり日本帰りますわ。
そうか・・・。
みたいなことを言われました。オーナーの言っていたもう少し働いてもいいぞの意味はよく分かりませんが、それが仮に合法的な就労ビザのことを指していたのだとしても、やはり同じく断っていたと思います。それでも、例え社交辞令だったとしても、その気持ちは嬉しいものでした。
しかし、マッサージの仕事をしていても未来がない、将来が描けませんでした。まあ、それ以外にも特にやりたいこともないので、未来を描くことなんてどっちにしろできないのですが。それでも限界を感じていたマッサージ業界にとどまるよりも、違う業界に飛び込んだほうが良いとその時は思いました。
その後も何度となく意思を翻意させようと話を振ってくるオーナーに対して、もうその話はおしまい、と釘を刺し最後なんだから、もっと楽しい話、エロい話でもしようとオーナーに言いました。最終的に、今日は飲みまくろう、と仕事から帰る途中に買ってきたビールの缶1ケース(24缶入り)をすべて飲み干してしまいました。
今でこそこんなにビールを飲んだら酔っぱらうというよりもお腹が一杯になって気持ち悪くなるのですが、その時はさすがまだ20代。この時はまだまだ頭は冴えていました。オーナーはかなりへろへろになっていましたが。そして、夜も更けてきていたので帰ることにしました。ちなみにいつもであれば玄関で別れるのですが、この日オーナーは1階エントランスまで見送りに来てくれました。
・・・じゃあそろそろ帰りますわ。
>・・・そうか、分かった。
車で送ろうか?
>いや、そんだけ酔ってたら無理でしょ。酔い覚ましに歩いて帰ります。
それじゃあ気をつけてな。
>・・・今までお世話になりました。あ、あと雇ってくれてありがとうございました。
・・・うん。
さすがに涙することはなかったですが、なかなかのワンシーンだったと思います。いつまでも見送ってくれるオーナーを背に深夜のバンクーバーを歩いて帰路につきました。