海外移住日記第8話 社長が空き家法案で一攫千金をもくろむ

Pocket

空き家法案と捕らぬ狸の皮算用

空き家法案とは?

正確に言うと、「空家等対策の推進に関する特別措置法案」と言います。この法案が国会に2014年11月19日の参院本会議において全会一致で可決、成立しました。この特別措置法は、市町村の権限強化が柱になります。この法案可決により、そのまま放置すれば倒壊の恐れのある空き家や、衛生上、保安上、景観上など著しく有害となる恐れのある空き家などを「特定空家等」と位置付け、市町村はそれらの所有者に対して、撤去や修繕を強く命令できるようになります。所有者が従わない場合は行政代執行(所有者に代わり撤去する)によって生活環境の保全を図ることもできる、としています。

市町村はまた、危険な状態の空き家の所有者を迅速に特定できるよう、固定資産税の課税情報の利用が許可されました。生活環境保全のために、空き家と認められる場所に立ち入って調査することもできるようになります。今までも各市町村が独自に空き家に関する条例を制定していたのですが、国が法的な根拠を提示してくれた法律がついにできたのです。また空き家の所有者にも、固定資産税の優遇措置や解体費用の補助負担などが検討されています。

・・・このように空き家問題は都会・地方に限らず既に社会問題化しています。空き家は、建物の腐敗、ゴミの不法投棄などの衛生上の問題。浮浪者や不審者が住み着いてしまったり、放火の対象になるなどの保安上の問題。空き家による周辺イメージの悪化からくる実勢相場の下落など景観上の問題。などなど、さまざまな問題を内包しています。

普通の家が、空き家や留守宅に至るまでには、入院や転勤等による留守、相続の発生など様々な事情があります。特に海外移住や海外長期滞在などの場合では、日本にある持ち家や不動産を処分せず、いつか戻るかもしれないから、思い入れがあるから、などの理由で空き家にして置いておくケースもあるかと思います。

しかし人が済まない家はすぐに荒れてしまいます。何の手入れもせず風雨にさらされたままでは、資産価値にも致命的なダメージを与えることにもなりかねません。さらに、自分の所有する建物が原因で、他の人に損害を与えた場合にはもちろんその損害を賠償する責任も生じてきます。「自分は住んでいない」「空き家・留守宅なので知らない、責任はない」などの言い訳は通らなくなってきています。

捕らぬ狸の皮算用

さて、ここから会社の話になってくるのですが、このニュースを聞きつけた社長が、これはビジネスになる!と言い出しました。”うちの会社は、10000件の空き家、空き室等の情報、を持っている。この情報は空き家法案を施行するにあたり有用な情報のはずだ。宝の山だ。そして結果を出したい政治家が必ず飛びついてくるはずだ。うちの会社が情報を出す代わりに不動産の売却や、解体撤去、リフォーム、リノベーションに関わることができるはずだ”

”へー、これが捕らぬ狸の皮算用をする人ってこういう顔かー。滑稽だなー”

冷静にそう思いました。と言うか福岡の話をしている時と同じ顔してました。しかしこうなったら社長は止まりません。そうして今やってる業務はすべて止め、こっちのビジネスを主にやっていく宣言が発せられました。行動力だけは無駄にある社長。早速、県会議員との接触に成功しました。

それから数日後・・・大変興味あるお話ですって言われたわー、とほくほく顔で帰ってきましたが、それって体よく追い返されただけじゃないのか?・・・そんなほくほく顔の社長にはどうしても言えなかったのですが、10000件の空き家・空き室情報があるとは言っても、5年ほどかけて集めた10000件の情報なので、5年前の空き家・空き室はすでに空き家ではなくなっていることが多いのです。

社長は我々のように現場で調査業務をしていないので分からないのですが、現場の主観では、ほとんどのマンション等の空き室は半年で空き室でなくなり一軒家の空き家は半年ほどで空き地になり1年ほどで新しい所有者が入ります。そう考えるとまともに使える空き家・空き室情報は、直近半年~1年くらいの1000件ほど。つまり10分の1くらい。しかもその内の8割はマンションの空き室情報なので使えるわけもありません。

こんな情報に政治家が乗ってきてくれるのだろうか?また仮に乗ってきてくれたとしてビジネスに参入させてくれるのか?こんな零細企業に?ちなみにこの時点で私は既に退職する方向で心が固まっていました。会社には内緒で転職活動や面接も密かに受けていました。ちなみにこの後、この空き家ビジネスが軌道に乗ったかどうか詳細は分かりません。