ヨーロッパ横断旅行記86 サンヴィセンテ岬にて大西洋に沈む夕日を眺める

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ポルトガルのサグレス。このサグレスのはずれにあるサンヴィセンテ岬は、ユーラシア大陸西南端の場所であり、日本人バックパッカーの聖書“深夜特急”で主人公、沢木耕太郎、が旅の終わりを決意する岬でもあります。私はこのサンヴィセンテ岬へ行くため部屋を16時半くらいに出発しました。

当時のガイドブック“地球の歩き方 ヨーロッパ版”にはサグレスからサンヴィセンテ岬までおよそ6kmと書いてありました。それを信じて歩いて行った私がバカでした。嘘をつけ。死ぬほど遠かったぞ。当時20歳の私が歩いて2時間近くかかりました。

まあ、とりあえず夕日が沈む前に到着したことだけが唯一の救いでした。岬には10人近い観光客?地元の人?らしき人がいました。皆一様に大西洋に沈む夕日を見に来ているようでした。当時、ゴリゴリのバックパッカーであり、深夜特急にはまっていた私は、沢木耕太郎がしたように、大西洋に沈む夕日を物憂げに見つめる、というのを素でやっていました。

さて、そんな自己陶酔、自己満足な行為をしばらくした後、近くにいた優しそうなおばちゃんに夕日をバックに写真を撮ってもらい、夕日が完全に沈むのを見送った後、その場を後にしました。そう。私は、夕日が完全に沈むまでサンヴィセンテ岬にいてしまいました。

夕日が沈むということは、当然周りは暗くなっています。何を当たり前のことを思うかもしれませんが、サンヴィセンテ岬まで徒歩で来ている私は、当然帰りも徒歩・・・徒歩で?あの何もない道を?真っ暗な中帰る?今はどうか分かりませんが、20年前のサグレスからサンヴィセンテ岬までの道のりは、何もないところに道だけが地平線まで伸びているようなところ。

当然、途中に民家も商店も街灯すらありません。あるのは月明かりのみ。私は行きに2時間近くかけて来た道を今度は真っ暗な中、帰らなくてはいけませんでした。自分に酔って大西洋に沈む夕日を見つけ続けた私バカバカ。

こんなところで誰かに襲われたら一巻の終わりだな。

いや、野犬に襲われても死ぬな。

そんなことを考えながら、真っ暗な道を半泣きになりながら月明かりを頼りに家路につきました。道が一本道だったので迷うことがないのが不幸中の幸いでした。ダッシュして、力尽きて歩いて、あまりの強さに歌を大声で歌い、そしてまたダッシュして・・・気づけば行きに2時間かけた道のりを1時間ちょっとで戻ることができました。

結果、何も起きませんでしたが、あんなに行きた心地がしなかったのは、ブラジルのサルバドールのスラムを深夜歩いた時、またはつい最近フィリピン、アンヘレスの明かりのない道を歩いた時、と今までの人生で合わせて3度です。


深夜特急6-南ヨーロッパ・ロンドン- (新潮文庫)